僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































電話が鳴る。

ディスプレイには本日二回目の名前が表示されていた。

 

 

 

 

 

「どうした?」

『切原を見つけた!今コーヒーカップの前のベンチにいるんだけど、来れるか!?』

「ああ、今行く。すぐ近くにいるから待ってろ。」

『おう、じゃあな!』

 

 

 

 

 

電話が切れる。

宍戸の声が妙に焦っていた気がする。

切原が見つかった喜びと、何かの不安が混ざったような・・・。

 

 

 

 

 

「跡部!誰から?」

「宍戸だ。すぐそこのベンチにいるらしい。行くぞ!」

「マジマジ!?何かあったの!?」

 

 

 

 

 

説明するのも面倒だったので、ジローを無視して足を速めた。

すぐ前に宍戸が見える。

ベンチには切原が寝ているのが確認できた。

 

 

 

 

 

「あ、跡部!それにジロー!」

「宍戸、他の奴に連絡は?」

「まだだ。とりあえず跡部に話したいことがあって・・・・。今までのこと全部。」

「今までのこと?何だ?」

 

 

 

 

 

宍戸は一瞬、後ろで眠る切原に視線を向けると、すぐにまた俺に向き直った。

 

 

 

 

 

「最初に、ここが異空間かもしれねえって話だ。」

「は?異空間?」

「宍戸、頭打ったの?」

「打ってねーよ。俺、監督に会いに警備室行っただろ?だけど監督がいなかったんだ。」

 

 

 

 

 

妙にワクワクしているジローが近くの格子に座った。

こいつは・・・。

本当に緊張感のない奴だ。

宍戸が難しそうな顔をして地面を見つめている。

後ろの切原が小さく唸った。

 

 

 

 

 

「警備室にはモニターがいっぱいあって、この敷地内のあらゆるところの映像が見れた。だけど・・・丸井と、不二以外誰も映ってなかったんだ。」

「え、ソレってどういうこと!?」

「わからねえ。でもすぐにみんなポツポツと突如モニターに映り始めて・・・最後に跡部とジローがそこの曲がり角から出て来た。」

「・・・・曲がり角だと?」

「ああ、それで・・・・不二との映るモニターに視線を移し替えたら・・・・不二の様子がおかしくて・・・・。」

 

 

 

 

 

そこで宍戸は黙る。

跡部とジローは一度、視線を交えた。

曲がり角で突如モニターに現れた跡部とジロー。

跡部には心辺りがあった。

あの時、ジローの背景が歪んで見えたこと。

そして、通り過ぎた直後、急に雪が止んだこと。

確かに異空間へやってきたと言えばしっくりくるのだろう。

しかし、それを認めていいものなのだろうか。

そもそも現実にありえる話なのだろうか?

いや、ありえないだろう。

跡部は少し頭の中で考えた。

 

 

 

 

 

「俺、達がいるMの屋敷まで走ったんだ。着いた時には丸井もいて、不二が二人に迫ってた。不二の雰囲気がおかしかったから・・・俺は咄嗟に不二を背後から羽交い締めにして二人を逃がした。そのあと不二は気が狂ったように叫びだしたから・・・殴って気を失わせた。」

「宍戸・・・じゃあ不二は?どうして不二はここにいないの!?」

 

 

 

 

 

ジローが俯く宍戸に問い掛ける。

言われればそうかもしれない。

気を失った不二はどこにいるのだろうか。

少なくとも今、自分達の周りに不二らしき人物は何処にもいない。

宍戸は困ったように人差し指で頬を掻いた。

 

 

 

 

 

「そのことなんだけど・・・不二を座らせたまま壁に立てかけて、その部屋にあった棺を開けたんだ。そしたらさ、中に切原が入ってたんだよ!」

「ひ、棺の中に切原がいたの!?」

「ああ!俺もびっくりしてよ。急いで立て掛けてある棺から切原を取り出して息があるか確認したら・・・・寝てるみたいだった。とりあえず安心して肩に担いで外に連れていこうと振り返ったら・・・・。」

「振り返ったら?」

 

 

 

 

 

首を傾げるジローに、言いづらそうな宍戸。

跡部は黙って宍戸の次の言葉を待った。

彼は大方、予想がついているのだろう。

いたって冷静だった。

 

 

 

 

 

「・・・・不二がいなくなってた。」

「に、逃げちゃったってこと!?」

「まあ、そういうことだな。」

 

 

 

 

 

ジローが驚く。

苦笑う宍戸の背後で、切原が唸りながら寝返りをうった。

苦しそうな表情で、何か、小さな声で呟いているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、何かおかしくない?」

「・・・・そうやの。」

 

 

 

 

 

売店の売り物を一つ手に取る。

可愛いらしい豚の縫いぐるみだ。

仁王は少し物欲しそうな瞳でそれを見つめた。

 

 

 

 

 

「俺は真剣に言ってるんだけど?」

「あ、俺の縫いぐるみ・・・・。」

 

 

 

 

 

幸村は笑顔で豚の縫いぐるみを仁王の手から取り上げる。

幸村の手の中で縫いぐるみは形を変形させた。

かなり力が篭っているようだ。

 

 

 

 

 

「お金払ってないんだからまだお前のじゃないだろ。・・・・ま、払わなくても貰えそうだけどね。」

「犯罪にだけは手を染めたくなか。代金だけカウンターの上にでも置いておこうかの。」

「ふふ、詐欺師のくせに律義だな。」

 

 

 

 

 

仁王は縫いぐるみの代金をレジのカウンターの上に置いた。

そう、この売店には店員がいなかった。

ここだけではない。

さっき行ったアトラクションにも係員がいなくなっていたのだ。

 

 

 

 

 

「ソイツ、名前でもつけてあげたら?」

「名前ねえ・・・・・フランソワなんてどう?」

「ネーミングセンス0だな。」

「そうか?なかなかイケてると思うんやけど・・・。じゃあ幸村なら何にする?」

「俺ならアンドレ27世って名前にするかな?いいよね・・・ベルサイユ。」

 

 

 

 

 

待ってましたと言わんばかりの即答。

仁王は縫いぐるみと睨み合いっこしながら、鼻と鼻をくっつけた。

 

 

 

 

 

「嫌。アンドレはどれだけ子孫繁栄しとるんじゃ。せめてアントニオの方がよか。」

「あ、それいいな。アントニオにしなよ。」

「っつーわけで、お前は今日からアントニオじゃ。シクヨロ。」

 

 

 

 

 

丸井のモノマネが好きなのか、豚の縫いぐるみに向かって無表情でブイサインをする仁王。

幸村はそんな同胞をほほえましく見つめた。