僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「こ、ここまで来れば大丈夫だな。、立てるか?」

「うん、私は全然大丈夫・・・。丸井君こそ平気?」

「俺はこんくらいじゃバテたりしねえっつーの!まだまだいけるぜぃ!」

 

 

 

 

 

ニカッと笑いながらも息は荒い。

何度か深呼吸をすると、丸井君は壁にもたれてその場に座り込んでしまった。

それもそのはず。

彼は私を抱っこしたまま全速力でここまで走ってきたのだ。

口ではああ言っても、疲れないはずがないのだ。

私も、胡座をかいて座る丸井君の隣に腰掛けた。

 

 

 

 

 

「ここってどこの洞窟?」

「えーっと・・・・地図で言えばEの場所に当たるんじゃねえかな?」

「そんなところまで走って来たの!?」

「だって不二追っかけてきそうだったじゃん?宍戸の力じゃ押さえ付けられそうになかったし・・・・。」

 

 

 

 

 

丸井君はそう言うと、頭の後ろで手を組み、薄暗い天井を見上げた。

確かに、不二君の力は尋常ではなかった。

あのまま見ていれば間違いなく宍戸君は跳ね退けられていただろう。

・・・・・待てよ。

それなら逆に、もっと駄目なのでは?

宍戸君が危ないじゃないか。

宍戸君はあのあとどうしたのだろうか。

ちゃんと逃げれたのかな?

それとも不二君に・・・・。

いや、最悪な考えは止めておこう。

逃げれたはずだ。うん。

宍戸君なら逃げれたに違いない。

 

 

 

 

 

「・・・・水の流れる音がするね。」

「ああ。ここは船に乗って水の上を進んでいくアトラクションだからな。ま、俺達は何も乗らずにここまで走って侵入してきちゃったけど!ど?俺って天才的だろぃ?」

「え!?あ、うん!そうだね・・・・。」

 

 

 

 

 

よく考えてみた。

丸井君はどうやってここまで辿り着いたのか。

洞窟の周りには水の道が広がっている。

しかし丸井君が水に濡れた形跡はない。

私はここに来るまで目をつむって丸井君にしがみついていた。

だからどうやってここまでやって来たのか、全くわからなかった。

丸井君は天才的・・・・なのだろうか。

 

 

 

 

 

「あ、丸井くっ・・・・!」

ぐぅぅ〜。

 

 

 

 

 

お腹・・・・私からかな?

お腹が鳴った。

携帯の時計を見る。

お昼前だ。

そりゃお腹も空くだろう。

だけど!

恥ずかしい!

恥ずかしすぎる!

明らかに距離が近い丸井君に聞こえているじやないか!

丸井君は目を真ん丸にして私を見つめた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ぷはっ、、腹減った?」

「わ、笑わないでよ!だってもうお昼になるんだもん!」

「それじゃ仕方ねえよな!あ゛ー、俺も腹減ったかも!の腹の音聞いたら俺まで腹減ってきちゃったぜ。」

「私のせい!?」

「当たり前だろぃ?あー何かねえかなあ・・・・・あ、そうだ!」

 

 

 

 

 

何かを思い出したように鞄を漁り出す。

取り出してきたのは少し形の崩れた紙パック。

訳のわからない私は、嬉しそうに笑う丸井君をただただ見ていた。

 

 

 

 

 

「じゃーん!俺のおやつのケーキ♪」

「な、何でケーキなんか持ってきてんの!?」

「持ってきたんじゃねえよ。Qのアトラクションで貰ったの!ホントは一人で食うつもりだったんだけど・・・・一緒に食おうぜ☆」

 

 

 

 

 

鼻唄を歌いながら箱を開ける。

中には五つのケーキが色とりどりに入っていた。

少し形が崩れているものもある。

丸井君は一つ手に取ると、そのまま口に運んでいった。

豪快だ。

 

 

 

 

 

「うんめえ〜!幸せ!も食えよ!」

「うん。ありがとう・・・・。」

 

 

 

 

 

私は1番手前にあったケーキを一つ手に取った。

苺ショートだろう。

しかし、てっぺんに乗っているはずの苺が乗っていなかった。

乗っていた形跡はあるのだけれど、きっと走った衝撃で取れたのだろう。

今、丸井君の食べているケーキの上に不自然に乗っかっていた。

ああ、私の苺・・・。

 

 

 

 

 

「そう言えばさ、俺ら二人ってちゃんと話すの初めてじゃね?」

「そういえばそうかも・・・・。」

「あん時は千石に邪魔されたからな。・・・あ、モノレールで何もされなかった!?アイツにあんまり近寄んない方がいいぜ!獣だから!!」

「え、うん!何もなかったよ!?」

 

 

 

 

 

口の周りにチョコクリームを付けた丸井君が真剣な目付きで私に向き直る。

私は思わず後ろにのけ反った。

千石君は獣なのだろうか?

そうは見えなかったけど・・・。

いや、私を無理矢理連れ去った時点で強引さは滲み出ているじゃないか。

まあ、どちらかというと私は幸村君や不二君あたりが危険人物なのだけれど。

ドSだし。

 

 

 

 

 

「何かさ、こんなこと言うのもなんだけど・・・・ってさ。初めて会った気がしないっつーかさ、馴染みやすい!」

「そうかな?普通じゃない?」

「違えよ!普通だったらちょっとは緊張とかすんだろ?初めて喋るっつーのにあんまり意識しないからさ、喋りやすいんだよな。」

 

 

 

 

 

それってつまり、私は女として意識されてないってことですか?

意識してないってことだよね?

だけど私は怖くて聞けなかった。

だってそれを聞いてもし丸井君が「そうかも!」って言ったら、たぶん私は立ち直れないだろうから。

だって女に意識されないってどうよ。

初めて会った人にだよ?

女失格じゃないですか・・・。

私は丸井君に、乾いた笑いを返すしかできなかった。