僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「やっ、・・・・不二君!」「僕が怖いの?酷いなあ・・・・。クスッ、そんなところにいないでもっとこっちにおいでよ。」
何を間違ったのか、今、私は部屋の隅にいる。
逃げられない。
不二君が一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
怖い怖い怖い!
誰か助けて!!
私は目をつむった。
その時、扉が勢いよく開く音と、私の名前を呼ぶ声がした。
「!不二!」
「ま、丸井君!」
扉の向こうから現れたのは丸井君だった。
不二君が振り返る。
丸井君は睨むようにして見つめる不二君と、部屋の隅で怯えるようにへたり込んでいる私を交互に見遣った。
そして、眉をしかめた。
「・・・・・何してんだ?お前ら・・・。」
「丸井・・・君はまた僕の邪魔をするんだね。いつだってそう・・・・君は僕からを奪っていく。」
不二君の目が開く。
怨みのこもった瞳で丸井君を見据えた。
丸井君はまだこの状況を理解していないのか、間抜けにも口を開けて、不二君をじっと見ていた。
私は不二君に気付かれないように、音を立てずにゆっくりと立ち上がった。
足が震える。
「・・・・を奪うって・・・俺何もしてないじゃん?っつーか俺、お前ら二人とも探してたんだけど・・・。別にだけを探してたわけじゃないんだし・・・。」
「僕からを奪う奴は許さない。たとえそれが誰であっても!」
「ま、丸井君逃げて!!」
「!?」
丸井君につかみ掛かろうとした不二君に、私は後ろから抱き着いた。
不二君の動きが止まる。
「・・・・チッ。何かよくわかんねえけど・・・・逃げるが勝ちってか?逃げ足なら負けねえぜぃ!?」
しかし、そう言った丸井君は逃げるどころか、私と不二君に向かって走り出していた。
私はびっくりして思わず抱きしめていた不二君の手を放してしまった。
「ただし、逃げる時はも一緒にだけどな!」
「チッ、させないよ!」
不二君が走ってくる丸井君に蹴りをお見舞いする。
「おっと、あっぶねえなあ!」
擦れ擦れのところで丸井君は避けるも、少し体勢を崩した。
不二君が振り返り、もう一撃足を振り上げ、蹴りを入れた。
「!ッ・・――――!」
丸井君が私を抱き上げ、それもまた避ける。
が、今度は左頬に擦り傷をおってしまった。
微かに血が滲み出ていた。
「丸、丸井君!血が!」
「へーきへーき!それよりも、怪我はない?」
屈託のない笑顔を向ける。
私が頷くと、今度は鋭い視線で不二君を睨み上げた。
不二君も負けないくらいの視線で私達二人を見下している。
丸井君が私をお姫様抱っこしたまま立ち上がり、不二君に向き直った。
この状況で言うことではないが、正直、この体勢は恥ずかしい。
本日二人目のお姫様抱っこだ。
たぶんこの先こんな体験は二度とないだろう。
扉側に立っている不二君に、丸井君は私を抱っこしている。
明らか、不利なのは私達の方だ。
私達は逃げられるのだろうか・・・・。
「諦めてを渡しなよ。」
「俺は諦めるってのが大嫌いなんだよ。だからそこ退いてくんない?」
「・・・・退くと思ってるのかい?」
「思わないね。」
「・・・・・・。」
睨み合いが続く。
一歩、不二君が足を踏み出した。
その時だった。
「オラァア!早く行け丸井!」
「し、宍戸!?」 「宍戸君!?」
背後から不二君を羽交い締めにした宍戸君。
私も丸井君も間抜けな声を出した。
だけど丸井君はすぐに頷くと、私を抱き抱え直して走り出した。
宍戸君が辛そうに不二君を羽交い締めし続ける。
宍戸君の腕の中で不二君がもがいていた。
「落ちねえようにしっかり捕まってろよ!落ちたって責任取らねえかんな!」
「う、うん!」
私は丸井君にしがみつく。
宍戸君と不二君の隣を通り過ぎ、部屋を出た。
「放せ!宍戸!」
「んなコトできっかよ!」
「宍戸!殺されたいのかい!?」
腕の中でなおも、もがき続ける不二。
このあまりにも凄まじい豹変ぶりに、宍戸は少し戸惑った。
そう、宍戸はモニターで見ていたのだ。
不二の様子が変わっていく様を。
そして、仲間がモニターに現れる瞬間を。
信じがたいことだが、次々とモニターに現れた仲間達に、目を疑った。
そして最後、跡部とジローが突如、曲がり角のところで姿を現した。
モニターには仲間全員の姿が確認でき、驚きを隠せない状態で宍戸は警備室を飛び出した。
向かうは不二とのいる部屋。
そして今、ここにいたるのだ。
「・・・・ッ君もまた僕の邪魔をするみたいだね!許さないよ宍戸!丸井!!」
「なっ!ッ・・――――!?」
「許さない!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」
宍戸の腕の中、狂い出す不二。
もはやこれ以上、自分の力では止めることができなさそうだ。
宍戸は一瞬目をつむり、殴る決意をした。
「悪いな不二!」
「なッ・・・――――!?」
ゆっくりと瞳を閉じる。
不二はそのまま宍戸に倒れ込んだ。
宍戸は抱き留め、安堵の溜め息を吐いた。
「危ねえ・・・・なんつー力してんだ?コイツ・・・。」
気を失っている不二の腕を肩に担ぐ。
そこでふと気付く。
棺のうち、一つの蓋が閉まったままだ。
何か、無性に開けたくなった。
「・・・・・見るくらい、いいよな?」
不二を壁に座らせたまま立てかけ、右から二つ目の棺に手をかけた。
息を呑む。
「これもミイラだったらどうしよう・・・。」
左端の棺にはミイラが顔を出している。
本物だけに怖い。
しかし、ここで開けなければ男が廃る。
何故か、そう自分に言い聞かせて蓋を持ち上げた。
「!?、・・・・・・・・・き、切原あ!?」
中に入っていたのはそう。
自分達が探していた、正真正銘の切原だった。