僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「き、きゃぁぁあああああ!!」
確かに今、の叫び声が聞こえた。
微かだったけど・・・聞き間違いではない。
今目の前にある屋敷からだ。
出口と書いてあるのにも関わらず、中へと飛び出した。
「!・・・・間に合え!」
どうか間に合ってくれ。
どうか・・・・。
赤也みたいに、自分の知らないところで誰かに何かが起こるなんてごめんだ。
自分の無力さに腹が立つ。
「、無事でいろよ!」
走るスピードを速め、丸井は暗闇を駆け抜けた。
「失礼します!監督ッ―――――・・あれ?」
警備室の扉を勢いよく開ける。
しかし、いるはずの監督はいない。
宍戸は脱力しながらも、辺りを見渡す。
「・・・・モニターから俺達のこと見てたのかよ。悪趣味だな・・・。」
目の前に広がる数々のモニターに目を凝らす。
アトラクションの中を映すモニターもあった。
「あれ?・・・・どういうことだ?」
モニターに近付き、一つひとつ、モニターを見渡す。
そこで気付いた事実。
宍戸は言葉を失った。
「みんながどこにも映ってねえじゃねえか!」
そう、モニターには切原を探しているはずの仲間が誰ひとりとして映っていない。
先ほど降っていたはずの雪も止んだのだろうか、映ってはいなかった。
「いや、待てよ。・・・・これ、丸井じゃねえか!それにこっちにはと不二!」
二つのモニターに映っている仲間を見て安堵の溜め息が漏れる。
しかし、他の仲間がいない。
もう一度、目を凝らしてモニターを見遣る。
何か、変な胸騒ぎを感じた。
「ふ、不二君・・・・これ・・な、何!?」
「・・・・・・・。」
不二君の腕にしがみついた。
だけど不二君から返事は返ってこない。
蓋に手を添えたままじっと棺の中のものを見つめている。
私は恐怖を覚えた。
「・・・・・不二君?大丈夫?・・・・ねえ、な・・何か言ってよ!?怖いじゃん!」
それでも不二君は黙ったまま視線を動かさない。
私は不二君を揺さぶってみる。
すると、不二君が蓋から手を離し、私の肩へと手を置いた。
「わからない?・・・・これ、僕なのに・・・・わからないの?それとも・・・覚えてない?」
「ふ、不二君!?何言ってるのか・・・よくわからないよ!?」
ニッコリ、いや、不気味に微笑む不二君。
私は一歩、後ずさった。
不二君・・・じゃない?
まさか!まさかこれが異変!?
だとしたら逃げないと・・・!
でも肩がッ・・――――!!
不二君が掴んでいる私の肩に力が篭っている。
かなり痛い。
振り払おうとしても、力があまりにも強くてビクともしなかった。
「(怖い!)――――・・ッ!」
「僕を忘れちゃった?クスッ。悲しいな。」
一歩、また一歩と後ずさる。
それに合わせて不二君も前へ歩み寄った。
逃げなきゃ!
逃げなきゃ・・・!
でも足が震えて動けない。
額に滲む汗が頬を伝う。
「あ、アナタは誰!?不二君じゃないでしょ!?誰なのよ!」
一瞬、不二君が驚いたような表情を見せ、また不気味に微笑んだ。
「・・・・・・僕は不二だよ?」
「嘘!アナタは不二君なんかじゃない!」
「・・・・嘘なんかじゃない。僕は不二だよ。」
「!!?」
肩を掴んでいた不二君が手を離し、私の頬に手を添えた。
ひんやりした手が、背筋を凍らせた。
「また会えたね。。」
「雪・・・止まないね。」
ジローが近くにあったベンチに腰掛けた。
ここは少し前、向日達が酔いを冷ますために座っていた場所だ。
空からは真っ白な雪が舞い降りて来ていた。
頬に触れる雪が冷たい。
体温に触れては溶けて消えた。
「何か、俺・・・雪嫌いなんだ。」
足を投げ出して空を見上げるジロー。
目に入ったのか、痛そうに目を擦っていた。
「跡部は?」
「・・・・好きでも嫌いでもねえ。でも・・・。」
ふと、言おうとした言葉を飲み込む。
ジローが不思議そうに跡部を見つめ、次の言葉を待っていた。
跡部はジローの髪の毛に溶けずに積もる雪を虚ろな目で見つめた。
確かにコイツに雪は似合わない。
髪の上の雪とジローの髪がまったくと言っていいほど不釣り合いだった。
「どちらかと言うと好き、だろ?」
「!、・・・ああ。」
「やった!当たった!」
嬉しそうな満面の笑みでベンチに寝転がる。
完全に寝る体勢だ。
すかさずジローの頭を叩く。
ジローは苦笑いながらまた起き上がった。
「俺は冬が好きじゃない。・・・・・・・・・春が好き!」
「ふーん、そうかよ。」
「うん!みんなが、望んだ季節だから・・・かな?」
ベンチの上で胡座をかいて空を見上げたジローの目は、笑っているけど儚げだった。
みんなが望んだ季節とはどういう意味だろうか。
跡部は時たま理解の出来ないこの友人の横顔を、ただただじっと見つめていた。
「切原探さなきゃね〜。さて、そろそろ行こうか跡部!」
お前が勝手にベンチに座り出したんだろう。
そう言ってやりたかったが、自分を放ってさっさと歩き出したジローを見ると、言う気も失せた。
近くにあった時計を見上げると、もうすぐお昼の時間になるところだった。
道理でお腹が空くわけだ。
視線を戻すと、曲がり角でジローが遅いだの早くしろだの言いながら待っていた。
「ったく、自分勝手にも程があんだろうが・・・・。」
溜め息を吐いて、重い足を一歩、前へ進める。
一瞬、ジローの背景が歪んだ気がした。
跡部は自分の目を擦って、もう一度ジローの背景に目を遣った。
しかし、今度は何も起こらない。
気のせいなのだろうか?
疲れているからなのだろうか。
あとで目薬でもさしておこう。
「あーとーべーはーやーくー!」
ぴょんぴょんと、向日のように跳ねるジロー。
跡部は苦笑い、曲がり角にいるジローの元へと足を進めた。