僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「ちゃん、ここだよ。」
やっとのことで出口までやってきた。
扉を開ける。
奇妙な音を立てて真っ暗な世界が広がった。
「うわ、前見えない・・・。」
「太陽の光に目が慣れちゃってたからね。すぐ見えるようになるよ。行こうか。」
不二君が一歩前に出る。
私もすかさず後を追う。
「こ、怖い・・・。」
「クスッ、じゃあ僕に捕まってるといいよ。はい。」
不二君が両手を広げて私を抱き抱える。
つまり、不二君に抱きしめられながら歩くと言う形になるのだ。
ちょっと恥ずかしかった。
「雪ウザッ。」
顔にへばり付く雪を手で拭う。
丸井はと不二、そして切原を探し続けていた。
しかし何処にも誰もいない。
いるとしたら、たまに見る切原を探す二人組の奴らばかりだ。
そして、今、目の前には宍戸が向かって来ていた。
「あ、丸井!はどうしたんだよ!」
「宍戸・・・。今探してるんだって。」
「いねえのか!?お前すぐ追ったんだろ!?」
宍戸が驚いたように目を見開いた。
丸井はムッとして、宍戸の横を通りすぎようとした。
「・・・・・悪いな。」
宍戸の横を通りすぎた直後、背後から宍戸の謝る声がした。
振り返る。
宍戸は背を向けたままだった。
「俺のせいで切原がいなくなっちまって・・・。ごめん。」
胸がズキンと痛んだ。
お前は何も悪くない。
そう言えればすっきりするんだろう。
だけど、今の丸井にそんな余裕はなかった。
黙ったまま俯いているだけだった。
「じゃあ俺、監督のところに行ってくるから。達のこと頼んだぜ!」
宍戸が走り去る音が聞こえる。
聞こえなくなるまで、俯いたまま何も言わなかった。
言えなかった。
今の自分に言う資格がなかったから。
そして丸井も歩き出す。
行き先はわからない。
考えてなかったから。
さっきの曲がり角を今度は逆から曲がる。
「あ、雪止んだ。・・・・・ラッキー。」
急に雪が止んだ。
立ち止まり、空を見上げてふと呟いた。
ラッキーなんて言うと千石みたいだ。
ラッキーやらアンラッキーばっかり言ってんもんなアイツ・・・。
自嘲気味に苦笑って振り返る。
しんとした遊園地に、自分以外誰もいなかった。
「・・・・・変な天気。気味悪いや。」
そしてまた誰もいない道を歩き出した。
「ちょっと不二君!どこ触ってんのよ!」
「さあどこだろうね。クスッ。」
私が怖いと言ったら抱きしめながら歩いてくれた不二君。
しかし先ほどから腰なんかをいやらしい手つきで撫でてくる。
最低だ。
この体勢なだけあって、動きづらいうえに、まだ目的の部屋にはつかない。
「変態!セクハラ!こんな時に不謹慎だよ!」
「やだなあ、場を和ませてるんじゃない。僕の心遣いをわかってほしいね。」
「そ、それならもっと違うやり方があるでしょうが!」
「じゃあ離れて歩く?僕は別にいいんだよ?」
汚い。
この子の心は醜く歪んでいる。
ニッコリ笑っているはずなのに、このうえなく腹の底からムカついてくる不二君の笑顔。
ドSだ。
そうだ、不二君は幸村君と同じドS軍団の一人なんだった。
忘れてたよ。
危険なんだよ。うん。
馬鹿だな私・・・。
「ちゃん、もうすぐだよ。」
「・・・・うん。(やっと解放される。)」
目の前まで来ると、不二君がドアノブを回した。
私は安堵の溜め息を吐く。
ギギッと音を立ててドアが開いた。
「!」
前方に棺が四つ並んで立て掛けられていた。
うち、右端と右から三番目の棺は蓋が開いていて、中で眠っているドラキュラが見えている。
リアルで怖い。
今すぐにでも目覚めて飛び出してきそうだ。
「不二君、どっちを開けたの?」
「左端。・・・・・それよりもちゃん。」
抱きしめられていた体が解放される。
お互いの体温で温まっていた背中が急に冷たくなった。
不二君に振り返る。
彼は真剣な眼差しで私を見据えていた。
「もし僕に何か異変が起きたらすぐに逃げること。・・・・・これ、約束できる?」
トクン
心臓が音を立てた。
不二君に異変?
それってまたあの時みたいに人格が変わっちゃったりすること?
だったら私が逃げちゃったら誰が不二君を止めるっていうの?
私は首を左右に振った。
不二君が顔をしかめる。
「私、不二君を置いて逃げるなんて無理だよ!私も一緒にいる!」
「ダメ。助けようなんて思わないですぐ逃げて。じゃないと・・・・・今、君を跡部達に帰すよ?」
「!、そんな・・・。」
跡部君達のところへ行けば、たぶんもう不二君のところへは行かせてくれないだろう。
それは嫌だ。
だけど不二君を一人にすることなんてできない。
いや、してはいけないのだろう。
だけど不二君の私を見る目が怖い。
表情には出ていないけれど、瞳の奥から必死さが伝わってくる。
私はしぶしぶ首を縦に振った。
「・・・・・わかった。」
「ちゃんはいい子だね。じゃあ開けるよ?」
「う、うん。」
左端の棺に手をかける。
不二君の手が少し、震えているように見えた。
何が入っているのだろう。
私は息を呑んだ。
「3、2、1で開けるからね。いくよ?」
「うん!いいよ!」
握りこぶしに力を入れる。
鼓動が速くなっているのがわかった。
「じゃあ3、2、1・・―――――。」
不二君の手によって蓋が開けられた。
そう、中に入っていたものは・・―――――――
「き、きゃぁぁあああああ!!」
死後何年かもわからない生々しいミイラだった。