僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「クソッ、!」「丸井!・・・・・ッ、何のつもりだ仁王。」
の後を追って走り出した丸井。
跡部も追おうとするのを、仁王が腕を掴んでそれを阻止した。
「今は丸井一人に任せた方がよか。俺達は赤也を探さなきゃならん。」
「俺一人いなくたって探せるだろうが!」
「そこにいる寝坊助を起こすのはお前さんの仕事じゃろ?俺達じゃ手に終えん。」
「・・・・・チッ。」
舌打ちをして仁王の手を振り払った。
どうやらここに残るらしい。
仁王は苦笑った。
「い、いねえじゃん・・・・!」
曲がり角を曲がると、不二ももいない。
人気のない遊園地の情景が目に映った。
「はあ?ありえねえだろぃ?一瞬でどうやったらいなくなるっつーんだよ!」
丸井は走るのをやめて歩いた。
おかしい。
より先に行ってしまった不二はいなくてもわかる。
しかしが視界に入る場所にいないのはおかしなことだ。
だって、自分はより走るのが早い上に、この距離だ。
普通では絶対に視界に入る場所にがいるはず。
しかしいない。
丸井は辺りをキョロキョロしながら探し続けた。
「どこにいるんだよ。!不二!赤也!」
「不二君!」
名前を呼ぶと空を見上げていた不二君は振り返った。
驚いたように目を見開いて。
「・・・・・ちゃんどうしたの?」
「どうしたのって・・・・・不二君、みんなのところに戻ろう?何があってあんなこと言ったのかは知らないけど・・・きっとみんな許してくれるから、ね?」
不二君の手を取る。
不二君は目を真ん丸にして私をまじまじと見つめた。
どうしたのかな。
私の顔に何かついてる!?
私は何か変なことでも言ったのだろうか。
いや、いたって普通に真剣な台詞だろう。
驚くところなんて一つもないじゃないか。
でも目の前の不二君は驚いていて、普段閉じられている目が開いていた。
「僕・・・何か言った?」
「え!?・・・・覚えてないの!?」
今度は私が驚かされる。
だって今さっき、つい二、三分前の話だ。
やっぱり不二君はおかしい。
いや、わざとか?
しかしそうにも見えない。
本気でわからないといった顔をしている。
「覚えて・・・・ないのかな?・・・・ただ、はっきりとした記憶があるのはお化け屋敷の中でちゃん達と別れて・・・それで・・・一人で行動したところまでなんだ。」
「え・・・・?」
「その後からの記憶がいまいち何だかぼうっとしていて・・・・ケーキ食べたりして・・・みんなと合流したところまでしか覚えてないんだ。」
「そんな・・・じゃあみんなに言ったあの言葉は?やっぱり不二君の本心じゃなかったんだよね!?」
「あの言葉?・・・・たぶん。記憶にないけど。」
不二君が俯いて眉を寄せた。
どうしたものか。
本心でなかったのは嬉しい。
だけど記憶がないというのはどういうことだろうか。
今の今までにいつ記憶喪失になる場面があったというのだ。
だけど不二君が嘘を言っている様には見えない。
私は一生懸命、この状況を理解しようと頭をフル活用させた。
「じゃあ宍戸は監督のところへ行け。俺はジローと、忍足は越前、向日は鳳そして神尾と千石、仁王は幸村で手分けして探すぜ。問題はないな?」
跡部の言葉にそこにいる全員が頷く。
「じゃあアトラクションの中とかあらゆるところも隅々まで調べたらいいんだよね?」
「そうだ。連絡は全て携帯で。何かあったらすぐ俺に連絡を入れるといい。」
先ほどみんなに教えた跡部の番号。
氷帝以外の人のメモリーには新たに跡部という名前が加わった。
嬉しいのか嬉しくないのか・・・・。
微妙だ。
「じゃあ解散だ。」
みんなそれぞれのペアと、その場を離れた。
「お化け屋敷の中で・・・・棺を見つけた。」
「棺?」
「うん。一人で見て回ってる時に・・・・棺が四つ並んでる部屋があって、うち二つの中身が見えるようになっていたんだ。残り二つは蓋が閉まっていて・・・・僕は開けようとした。」
「ど、どうして?」
「わからない。何故か無性に開けたかったんだ。そこで記憶は失くなってる。・・・・・中身を見たはずなのに・・・記憶がない。」
あのお化け屋敷は確かに気味が悪かった。
いつものお化け屋敷とは違って、体の底から気分が悪くなるような・・・・・。
思い出すだけで額に汗が滲むのがわかる。
背筋がゾクッと震えた。
「僕もう一度見てくるよ。」
「不二君あそこに行くの!?」
「うん。何が入っていたのか・・・思い出したいんだ。」
「そ、それなら一度みんなに説明してからの方が・・・・。」
そうだ。
一度みんなに今のことを説明してからの方がいい。
きっとみんな不二君のことを心配しているに違いない。
私は不二君を見つめた。
しかし不二君は首を縦には振らなかった。
「それはできない。・・・ごめん。」
「どうして!?」
「何でかな・・・・みんなの顔を見ると、自分が自分でなくなってしまう気がするんだ。変な気分になって自分を保てなくなる。・・・・だから僕は一人で行ってくるよ。」
不二君は私に背を向けて歩き出した。
「私も行く!私も行くよ!」
「ちゃん・・・・何が起こっても僕は助けてあげられないよ?」
「そ、それでもいい!私も行く!」
振り返った不二君は、少し黙った。
そして私の手を取って歩き出した。
「・・・・不二君?」
「出口から入った方が近いんだ。だからこっち。」
優しく微笑む不二君を見て、ちょっと前にもこんなことがあったなと思い出した。
その時は隣に向日君もいて、私はそこに行く嫌で嫌で仕方がなかったのに、今は自ら望んでそこ向かっている。
おかしな話だ。
だけど怖いのは変わらない。
むしろ今の方が怖い。
だけど大丈夫。
あの時と同じように不二君が手を繋いでくれているから。
私は行ける。
私は気付かないでいた。
いつからか、また雪が止んでいたことに。
そして、あの角を曲がった時点で時計の針が止まっていたことに。