僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「くっそー・・・・。」「さっきからずっと威嚇しとるけど、そんなに俺と二人きりは嫌か?」
出発してからずっと前方を睨み付け、ふて腐れている。
そんな丸井は先程から自分達の前でいちゃついている(ように見える)と千石にムシャクシャしていた。
「嬉しくはないね。」
「ずいぶんはっきり言ってくれるな。俺今ちょっと傷ついた。」
「お前がそんなタマかよ。ふざけんな。」
そう言って頭の後ろで手を組み、空を見上げる。
自分にまで八つ当たりをしてくる丸井に、仁王は少し苦笑った。
「何が悲しくて、こんなところまで来てモノレールなんか乗ってるんやろ。」
「もう今更だろうが。嫌なら今すぐ落ちろよ。」
「アホ、落ちたらただじゃすまへんわ!俺を殺す気か?」
「お前がぐだぐだうっせぇからだろ?ほら、遠慮なく落ちとけよ。」
跡部が忍足の肩を押す。
忍足は慌てて自分の前にある手摺りを掴んだ。
「自分アホか!?ほんまに落ちるやん!?」
「当たり前だ。落とす気だったんだからよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・さよか。」
隣で飄々としている跡部を横目に、忍足は溜め息を吐いた。
本日何回目になるのだろうか。
溜め息を吐くと幸せが逃げるというけれど、それが本当なら今自分には幸せが一つも残ってないのではないか。
そう思ってしまうほど溜め息が多かった。
「ただ何が1番悲しいって・・・・やっぱそんなモノレールに男同士で乗ってるってことやな。しかも相手は跡部。」
「・・・・・・やっぱテメエ頭から落ちとけ。いや落ちろ。」
「ちょ、やめぇ!マジで落ちるやろ!」
「知ったこっちゃねえな。」
忍足の片足は宙を舞っている。
跡部が足蹴にしているからだ。
本気で危険である。
そして跡部も本気である。
忍足は必死に手すりにしがみ付いた。
しかしそんな格闘をしていても、もうすぐモノレールも終わる。
あと十メートルを知らせる看板が見えた。
そんな時、携帯の着信音が鳴った。
ディスプレイには“宍戸”の文字。
「はい。」
『あ、跡部!切原知らねえ!?』
「切原?知らねえな。どうした?いなくなったのか?」
少し焦った宍戸の声が電話の向こうから聞こえる。
跡部の表情が険しくなったのを見て、それに忍足が反応した。
電話から洩れる声に耳を傾けた。
『跡部今どこにいる!?』
「俺はSのモノレールのおりばだ。宍戸は?」
『俺はPから出たところにいる。ジローもだ!』
「近いな。じゃあとりあえずSの出口で待っとけ。今からそこに行く。話はそれから聞くから。」
『わかった!じゃあ今からそっち向かうよ!じゃ!』
電話が切れる。
モノレールも終わり、前方にいた四人と合流した。
が跡部の異変に気づき、そっと近寄る。
「どうしたの?跡部君。電話誰から?」
「・・・・・・切原に何かあったみたいだ。とにかく急いでここから出るぜ。」
「赤也が!?」
の問いに答える間もなく、跡部は階段を下り始めた。
丸井が叫ぶ声が館内に響いた。
跡部が真剣であるのを感じ取り、仁王と千石は黙って跡部の後を追った。
そして最後に丸井とも後を追う。
階段の下には宍戸とジローの姿が見えた。
「赤也に何があったんだ!?というより赤也は!?」
丸井君の声に宍戸君が振り返る。
顔が薄っら、青冷めているように見えた。
私は息を呑んだ。
「・・・・・Pの館内で・・・・俺と切原は別行動だったんだ。」
「どうして?」
ポツリポツリ話し出す宍戸君にキヨが問う。
今度はジロー君が俯き加減で話始めた。
「・・・・俺が寝てたから。だからその間だけ別行動ってことになったみたいなんだ。」
「ジローが起きるまで、十分ぐらい休憩しようぜってことになって・・・・・・・・・自販機辺りにいるからって切原は俺とジローと別れたんだ。」
宍戸君とジロー君の声が心なしか、震えているように思える。
何が、切原君に何があったのだろう。
私の鼓動も少しずつ早くなる。
早く。早く。早く。
「十分ぐらいしてそろそろかなって思って、最初に番号交換してたから・・・・・・それで携帯で電話かけたんだ。そしたら・・・・・ッ・・・・!!」
「宍戸?」
「そしたらッ・・・・・・・・・・・・!!」
黙ってしまった宍戸君。
視線はずっと俯き加減で、動きもソワソワしていて落ち着きがなかった。
忍足君が心配そうに宍戸君の背中を摩った。
「電話に出た切原が・・・・・・・・・・・・・助けてくれ、って!!」
『し、宍戸サン!助けて!早く!!』
『もしもし切原!?どうしたんだ!?』
『ちょ、どうでもいいから早く来て!早く!!』
『来てって何処へ!!?』
『ンなのわっかんねえよ!真っ暗でッ・・・―――う、うわ、うわぁぁあああああああああああああ!!!!!』
『もしもし!!?もしもし切原!!?おい!!?切原!!?』
「そこで電話が切れて・・・・・・・・・それで、ジロー叩き起こしてPの館内は探し回ったんだけど・・・・・・・・何処にもいなかった。」
「係員のオジサンにも聞いたんだけど・・・・・知らないって。」
ジロー君が悔しそうに地面を見つめている。
私達はただ、真剣に話す二人の話を黙って聞いていることしかできなかった。
切原君の身に一体何が起こったのだろうか。
私は寒気がして、大きく身震いをした。
隣に立っていた丸井君の拳がフルフルと震えている気がする。
表情もかなり険しい。
切原君のことを心配しているんだ。
仕方ない。
私も心配で、不安で、何がどうなってるのかわからないから、目に見えない恐怖を感じた。
空からは真っ白な雪が舞い降りていた――――――――――――――