僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































全てはここから始まった。

雪が、一面に広がった日。

これを不吉ととる者と純粋に喜ぶ者がいた。

 

 

 

 

 

「マジマジ、スッゲェー!雪だよ雪ー!!」

「珍しいな。この辺りに雪が積もるなんて・・・。もう冬も終わりだってのによ。」

「ですね。異常気象でしょうか?」

 

 

 

 

 

慈郎は雪をクッションにして豪快に飛び込む。

真っ白な雪の上に足跡を付けたのは彼が一番だ。

 

 

 

 

 

「慈郎、あまりはしゃぐな。」

「だって雪だよ!?こんなに積もることなんて当分ないってー!!」

「・・・確かに、本間にここ東京なん?めっちゃありえへんくらい雪ばっかやん。」

「ジロー!雪だるま作ろうぜ!」

「じゃあ俺頭ー!岳人はー「ヤメロ。」

 

 

 

 

 

どこぞの餓鬼だ?

跡部は頭を押さえ、溜め息を吐いた。

まぁはしゃぎたい気持ちもわからなくはない。

この都会にこれだけの雪が積もったんだ。

楽しそうに雪を丸める慈郎と岳人を横目見て、跡部はまだ見ぬテーマパークへと視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一時間半後の話。

 

 

 

 

 

「幸村部長見て下さいよ!雪っスよ雪!」

「ハハハ、はしゃぐのは大いに結構だが怪我だけはするなよ赤也。」

「了解っス!うわぁ、雪冷てぇ!」

 

 

 

 

 

両手で雪を掴む。

誰かが作ったのであろうか、足元には小さな雪だるまがひっそりと立っていた。

可哀相なことに顔は見事ぐちゃぐちゃ。

作った人の性格が現れているようにも見えた。

 

 

 

 

 

「ブッサイクな雪だるま〜・・・目、離れすぎっしょ。「赤也。」

「はい?―――っブッ!

 

 

 

 

 

呼ばれた方に振り返ると、顔面に見事、雪玉がクリーンヒット。

赤也は驚きと屈辱のあまり体が震え、雪玉を投げた張本人を睨み上げた。

 

 

 

 

 

「仁王先輩〜〜〜?」

「赤也、雪合戦しよ?」

「・・・・してから言わないでくれます?っつか嫌っスよ。餓鬼くさい。」

「こういうゲームは先手必勝じゃけん。さ、もう一丁いくかの。」

「・・・人の話聞いてる?」

 

 

 

 

 

赤也の話を無視し、いそいそと雪玉を三つほど作ってニヤリと笑った。

そんな仁王を見た赤也は、自分も負けじと急いで雪玉を作り始める。

幸村と丸井がそんな二人を見て呆れたように溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

(赤也はホント餓鬼だよなぁ。仁王の挑発にいとも簡単に乗っちまってよ。)

「あ!ブン太さん危ない!」

「は?・・―――ブッ!

「あらあら・・・・。」

 

 

 

 

 

叫び声に反応し、俯いていた顔を上げるも、見事赤也の雪玉が顔面にクリーンヒット。

仁王が嬉しそうに雪玉を一つ、壊れないようにゆっくりと丸井に投げた。

それを丸井は無言で受け取った。

 

 

 

 

 

「テンメェ・・・赤也、お前よっぽど死にてぇらしぃなぁ?」

「・・・いや、避けた仁王先輩が悪いんスよ・・・ね?」

「避けとらん。ノーコンな赤也が悪い。」

「(この人最悪!)・・・ちょ、え、ブン太さん!?落ち着いて!?」

「男ならちゃんと自分の行動に責任取らないとみっともないぜぃ?赤也覚悟!!」

(あ、鼻赤い。トナカイみたいじゃの。)

 

 

 

 

 

焦る赤也に雪玉を力いっぱい込めて投げようと構える丸井に、仁王は思った。

ふと、自分達の歩いて来た方を振り返る。

自分達と同じ四人組がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。

 

 

 

 

 

「幸村部長助けて下さいよ〜!」

「甘えるな。それくらい自分で何とかできないようじゃ赤也のレギュラー存続は危ういね。」

「あ、幸村危ない!」

 

 

 

 

 

丸井が叫んだにも関わらず、それを気にも止めない幸村は、

赤也に笑顔を向けながら誰かが飛ばした雪玉を素手でキャッチした。

雪玉は手の中で崩れ、地面の雪へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「クスッ、さすが・・・って言うべきなのかな?」

「不二君、キミ半端ないね・・・。(俺には怖くてできないなぁ。)」

「不二先輩は同類だからいいんじゃないっスか?」

「確かに、幸村さんと不二さんって似たオーラ感じるよな。」

 

 

 

 

 

どんなオーラだ。

幸村と不二は心の中でそう思ったが、あえて口には出さなかった。

雪玉を投げたであろう不二は手に付いた雪を掃っている。

 

 

 

 

 

「不二、君は俺に恨みでもあるのかい?」

「いや、楽しそうだったから僕も参加しようかなぁと思ってね。出来心だよ。」

「いきなり人に雪玉投げるなんて最低じゃの。」

「お前が言うなよ。・・・・ってか何?お前らもアソコ行くわけ?」

 

 

 

 

 

ここにいる全員が丸井が顎で指す方を見遣る。

神尾がパンフレットを取り出し、地図らしきページを開いた。

 

 

 

 

 

「テーマパークって書いてますけど・・・絶叫マシーン的なものが一つもないんですよね。」

「ホントだ。何か地味なもんが多いな・・・。こんなんでやっていけるのかねぇ。」

 

 

 

 

 

丸井はパンフレットについていた一枚の紙を手に取る。

そこには大きな文字で『Slush land』と書かれてあり、

そのすぐ下には学生15名を特別ご招待と書いてあった。

 

 

 

 

 

「同じ学校から招待されてる人が少ないし、俺と神尾君は一人だからね。アンラッキー・・かな?」

「立海って多いんスね。ウチは不二先輩と俺の二人だけど・・・どうしてこの組み合わせになったのか理由を聞きたいッス。」

「ふふ、越前は俺とじゃ不満?そんな風に言われるとちょっと悲しいな。」

「俺なら不満ありありッスね。不二さんと二人きりとか・・・怖いッス。」

「切原・・・・言ってくれるね。」

 

 

 

 

 

コイツは怖いもの知らずなのだろうか・・・。

そう心の中で思った丸井は、話をさえぎる様に手に持っている紙の内容を声に出して確認し始めた。

 

 

 

 

 

「え〜と何々?今回、本テーマパークにご来場下さいます皆様へ。

この度は皆様のご協力のもと、完成することが出来ましたことを有り難く存じます。

さて、本テーマパークに開園一週間前特別来場ご招待致しました、

十五名の皆様にお願い申し上げます。

封筒に同封致しましたパンフレットを必ずご持参下さい。

天候の状態が思わしくない場合、ご宿泊になる可能性がございますので、

ご宿泊のご用意もご持参していただく事をお勧め致します。

特別ご招待致しました理由におきましては、本テーマパークを

より一層良いものとする為に、開園前にお客様の声を聞こうというものです。

ご招待者十五名の皆様は、この度、氷帝学園テニス部顧問である

榊太郎(43)によるご指名によるものでございます。

どうか上記のことを十分にご理解頂いた上でのご来園をお待ちいたしております。

・・・・・・・・・だとよ。」

 

 

 

 

 

氷帝の監督はこの遊園地開設に多額の資金を出したそうだ。


丸井は宿泊の用意を持っては来たものの、未だこの招待状に疑問を抱いていた。

氷帝の監督は何故自分達を招待したのだろう。

この疑問を抱いた者は丸井だけではなかったのだけれども、誰一人として、

その疑問を口に出すことはなかった。

 

 

 

 

 

「(43)関係ないよね。」

「・・・・・・・・あ、集合時間過ぎてるじゃないッスか。行きましょうよ皆さん。」

 

 

 

 

 

千石の小さな呟きは、携帯の時計を見た神尾に流された。

疑問は確かにたくさんある。

だけれども考えたって誰にもわからない。

それなら早く行って本人に直接聞こうではないか。

そう思い、みなそれぞれ着替えの入った鞄を背負う。

 

 

 

 

 

「ま、せっかく監督が招待してくださったんだ。みんな楽しもう。」

「そうッスね!幸村部長の言うとおりッスよ!楽しみましょっ!」

 

 

 

 

 

鞄を背負った赤也は一足先に鼻歌交じりに歩き出した。

その後を幸村、仁王が追う。

少し遅れて丸井も歩き出した。

 

 

 

 

 

「赤也は元気じゃの。俺寒くて霜焼けしそう・・・・。」

「日頃の鍛えが甘ぇんだよ。お前は。」

「そういうブンちゃんもさっきからずっと鼻が頭と同じ色してるぜよ。大丈夫かの?」

「・・・ほっとけ。例え方がキモイんだよ。ストレートに言えよな。」

 

 

 

 

 

立海軍団が歩き出したのを見て、不二と越前が雪を踏む。

真っ白な上に、足跡が増えた。

 

 

 

 

 

「雪・・・・・変ッスね。いまの時期にこんなにも積もるなんて・・・。」

「―――――――・・何か、あるのかもしれないね。だけど、綺麗だ。これだけ真っ白だと・・・汚したくなっちゃう。」

「・・・・・・・・・ドS。」

 

 

 

 

 

二人の会話を聞き、苦笑いながら千石と神尾も歩き出した。

神尾はパンフレットと紙を鞄にしまう。

そして、青々とした空を見上げた。

吐いた息が白かった。

 

 

 

 

 

「可愛い子いるかな?ってか女の子も招待されてるのかな?男だけとかやだなぁ・・・・どう思う?神尾君。」

「・・・・・知りませんよ。」

 

 

 

 

 

この胸騒ぎはなんだろう。

この胸いっぱいに溢れる想いは何だろう。

懐かしい想いがするのは何故だろう。

 

 

 

 

 

神尾はふいに後ろを振り返った。

足跡が、ちゃんとついていたことに、

何故だか妙な安心感を覚えた。