君の死、僕の涙
負けるなんて、そんな恰好悪いことしたくねえ。
いつだって俺は、お前のために輝ける・・―――――
俺が俺である為に
「跡部ー!!!!!」
誰かが俺を呼んでいる。
負けるなと、そう言っている。
わかってる。
わかってるけど身体全体が動かない。
もう、俺は、動けない。
――――― ・・ ポツ
アイツが、が隣にいないと。
アイツが、が側にいないと。
俺は、呼吸すらまともにすることができない。
、お前は一体、何処へ行ったんだ?
――――― ・・ ポツ
俺の元へ帰ってこないというのなら。
せめて、忘れさせてくれ。
早く。
お前がいたこと、
お前と過ごした日々を。
それが出来ないと言うのなら、
いっそのこと、
時間が止まってしまえばいい。
何も考えなくていいように、
お前を、を思い出さなくたっていいように。
――――― ・・ ポツ
バカヤロウ。
俺の、馬鹿野郎。
俺は本当は強くなんかない。
だけど、強くあろうと気を張って、
何時しか寂しいという感情をコントロールできなくなって、
もうどうしていいのかわからなくなって、
逃げようと、現実から目を背けようとばかりしていた。
――――― 僕の心配より、自分の心配してなよ。
そんな状態じゃ、レギュラー落ちするのは跡部だって言ってんの。 ―――――
本当に笑えてくる。
俺は自分のこともまともにわかってなくて、
萩之助にあそこまで言われてまだ気づかなくて。
実際ここまで追い詰められて初めて気がついた。
俺は、本当の、馬鹿だ。
そして、誰よりも、弱い。
ザー ・・ ―――――
「うわっ、雨だ!!!」
誰かが叫ぶ。
突然振り出した雨に、慌てだすギャラリー。
だけど、俺もジローも、ましてやレギュラー達は誰一人としてその場から動かずに、
次に打たれるジローからのサーブを待ち望んでいる。
雨が、目に入る。
視界が、揺らぐ。
チッと舌打ちをしてラケットを構える。
これが決まればジローの勝ちだ。
何としてでも止めてやる。
部長として、俺自身としてのプライドをかけて。
だけど、身体がもう、言うことを聞かない。
高く上げられるトス。
目で追いながら奥歯を噛み締める。
雨が、容赦なく弱った身体を叩きつけた。
ゴロゴロ ピシャッ ・・ ―――――
「そこまでだ。今すぐ片付けて屋内へ行きなさい。」
大きな音を立てた雷が光る。
それに驚いて顔を上げると、ギャラリーの上から傘を差した監督が立っていた。
その表情には何もなく、ただ、今すぐやめろと強い眼差しがそう言っていた。
雷が鳴ったら外での部活はしてはいけない。
それは校則として従わなくてはいけないから仕方なく、俺とジローは言われた通り構えていたラケットを下ろす。
「あれ、ボールが・・・・」
ジローが呟く。
「おかしいな、打ったのに。」と首を傾げてネット際すれすれまでやってくる。
ジローはネットダッシュを得意とする。
どうやら打ったというのは本当だろう。
それを証拠に、さっきまでジローが立っていたのはネットのすぐ近くだった。
「あれー・・・ボール、消えちゃった。」
雨が、いまだ俺の頭を強く叩きつけてくる。
髪が頬や額にへばり付いててウザイ。
服も、もう身体にぴっとりとくっ付いていて、はっきりと身体のラインを映し出す。
頭が、ボーっとしていて、ジローの声が遠くに感じる。
周りで見ていたアイツらも、何か言いながら俺の元へと駆け寄ってくる。
『あとべっ!』
アイツらがいつまで経ってもの死を引きずっていて、
あまりにもそれが目に余ったから、こうやって試合をした。
氷帝学園の勝利を確実にする為に。
それは、いた仕方のないこと。
だけど、本当にいつまでも、
どんなに経ってもの死から抜け出せなかったのは、
岳人でも、ジローでも、忍足でも、萩之助でも、宍戸でも、長太郎でも、日吉でもない。
俺、だったんだ。
「跡部、泣いてるの?」
冷たい雨と、温かいモノが、混ざり合って頬を伝う。
こんな感情、俺はもう、いらない。
『やっと、泣いた。』
一瞬、お前の姿が見えた気がした。
の声が、
の笑顔が、
のその全てが懐かしくて、
忘れたくないと、そう思った。
の存在を俺の中から消すなんて、
初めからできるはずがなかったんだ。
「跡部、何泣いてるの?」
別に。
勝手に流れてくるだけだ。
「あーもしかして私が恋しいんだ!!」
冗談じゃねえ。
誰がお前なんか・・・・
「もう素直じゃないな跡部は。だからいつもそんな眉間に皺寄ってんだよ。」
うるせえ。
誰のせいでこんな顔になったと思ってんだ。
「力、抜いていいんだよ、跡部。」
・・・・・何?
「苦しい時、悲しい時はめいいっぱい泣いてよ。我慢しないで。」
言われなくても、わかってる。
それはアイツらが教えてくれた。
「みんな、心配してたんだからね。少しはみんなを頼りなさいよ。」
・・・・・そうだな。
これからはそうする。
「あらやだ素直。気持ち悪い。」
テメエしばくぞ。
「嘘うそ!それでいいよ!これで安心して私・・・・」
私、何だ?
「私、眠れるよ。」
!!
「ごめんね跡部。それと、ありがとう。」
待て、
待てよまだ・・・
「私、もう思い残すことなんてないや。楽しかったよ、みんなと過ごした三年間。」
待てって!
俺がまだお前に言ってないことがあるだろうが!!
「・・・・っ何よ、早く言ってよ!」
何だお前・・・
泣いてんのか?
「あ、当たり前でしょ!意地っ張りなアンタと違って・・・っ私は素直だし!?」
・・・・・・フッ、
そうでもないぜ?
「え?」
お前が好きだ、。
ずっと、これからも、この先も、ずっとずっと、
忘れない。
もう自分に嘘は、つかない。
俺は、俺で、ある為に、
俺が、俺で、ある為に、
お前を、を、忘れたりしない。
目を、背けたりしないと、誓ってやるよ。
最後、アイツ、は予想通り「バーカ」と笑って姿を消した。