君の死、僕の涙
どないしてくれんねん。
お前のせいで、もう、みんなバラバラや。
なあ。
俺は一体どないしたらええ?
タイミング
(えっとハサミどこにあるんや?)
俺は珍しく新しいソックスを買った。
そのソックスについとった値札を切り落とそうと、部室の中をめちゃくちゃに荒らしてまでハサミを探す。
救急箱の中になかったからきっと岳人あたりが使ったら使いっぱなしでその辺に置いてあるんやろうけど。
この無駄にでかい部室や。
簡単には見つかれへんかった。
「あーもう!使ったらもとあった場所に戻しとけや!」
そうゆう自分勝手な奴のせいで何で俺がこんな苦労せなあかんねんとか考えとったら段々と腹が立ってきて、
思わず手に持っとったタオルを後ろに投げ捨てた。
「ふぎゃ。」
「何や!?」
タオルを投げた後ろから声がして振り返る。
そしたら頭から俺のタオルを被ったが俺を膨れっ面で見上げていた。
もちろん今、部室には俺ひとりやと思っとったからがおったことに俺は驚いて声もでえへんかった。
「ハサミ、探してたんでしょ?」
「そやけど・・・・いつからそこおったん?」
「え、今だよ?あはは、驚いた?」
「あたりまえやろ。声かけろや・・・。」
「ごめんごめん。あまりにも侑士がムシャクシャしてたから驚かしてやろうと思って。」
「ホンマ自分質悪いわ・・・。」
悪戯に、歯を見せて笑うの姿を見て俺は呆れたように溜め息を吐く。
そんな俺を見て、は手に持っていたハサミを俺の前に差し出した。
「はいコレ。私のだけど間に合わせに使いなよ。」
「おおサンキュ。助かるわ。」
「でしょでしょ!?レンタル料三百円頂きまーす!」
「アホ、高いわ。」
ええことしてんのにいつもコイツは金を取ろうとする。
っつっても口だけやから実際に払ったことはないけど。
減らず口ってのはコイツのことを言うんやと俺は思う。
コイツほど一言余計な奴はおらんのとちゃうやろか。
俺はからハサミを受け取ると、その場に座ってソックスの値札を切り落とした。
は笑いながら「冗談なのに。」と言ってその値札を拾い上げ、ゴミ箱へと放り投げた。
「じゃあ、私あとでハサミ探しとくからそれ救急箱の中入れといていいよ。」
「ええんか?コレのやろ?」
「うん。だけどなかったら困るでしょ。今の侑士みたいに悪態つかれたら居た堪れないし。」
「そら堪忍な。」
はいつも俺が欲した時に現れて、その欲した物を何も言わずとも与えてくれる。
気が利く。
この一言で終わらされへんくらいコイツは何をするにしてもタイミングがよかった。
だから、
だから探し物なんかをする時はいつもが突如現れてそれを俺に渡してくれるのが、
いつの頃からか当たり前になっとった。
ジローや岳人とはまた違う。
そやけど俺も十分なくらいに甘やかされてたんやと思う。
「で、レンタル料は?」
「誰が払うか、アホ。」
「アホ言うな。出世払いでもいいよ?」
「・・・将来までお前と一緒におるとか、ホンマ勘弁して。」
あの時は俺、めっちゃ嫌そうな顔してこう言ったよな。
冗談やったけど、いつものノリで言うた冗談やったけど、
そんなことない。
俺はずっと、これからもずっと、
ずっとずっとずっとずっと
ずっと一緒におりたかったんや。
が死んで早三日。
まだまだがおらんこの生活に慣れへん俺らはまるで魂が抜けたみたいにぼーっとしとる。
時たま作る笑顔も、ほぼ空回り状態。
岳人は部活にけぇへんし。
ジローなんか部活どころか学校に来てるんかもわかれへん。
宍戸はずっと眉間にシワ寄せてひたすら部活に打ち込んどるけどそれも空回り。
一番負い目を感じとる日吉はただがむしゃらにボールを壁に向かって打っとるだけや。
長太郎もぼんやりして今にも泣きそうな顔しては俯いて、スカッドサーブもフォルトの連続。
聞いた話では滝もよく練習中いなくなるらしい。
問題は跡部。
アイツはもう、自分で気付いてへんくらい重症や。
顔に覇気すらないやん。
「忍足、テメェ何突っ立ってんだよ。早くコートに入れ。」
「・・・はいはい。」
機嫌の悪い跡部に促され、ラケットで肩を叩きながらコートに入る。
前よりはるかに部員数が減ったこのテニスコート。
煩かったと岳人とジローおらんだけで全然違う。
全然、違うんや。
テニスが、俺の楽しみやった。
跡部率いるこの氷帝学園テニス部で個性的なメンバーと、マネージャーのがおるその中で大好きなテニスをすることが、
毎日のつまらん授業なんかの学校の中で、唯一の楽しみやった。
なのに、今はもう、
一つ欠けてしもたら、それが苦痛でしかたない。
テニスが、大好きやったはずのテニスが、
今は苦痛でしかないんや。
「えっと、テーピングテーピング。」
ちょっと足首痛めて最近はテーピングを撒いている。
最後にを見たんも、この部室でテーピング撒いてる時やったっけな。
部室のあらゆるところを探ってテーピングを探す。
なかなか見つからんくてイライラしとったからタイミングよく部室が開いてそっから誰かが出てきた。
「あ、・・・・・っ」
「え?」
振り返ると驚いた顔をした滝の姿。
一瞬目を見開いてすぐにまた何とも言えない顔で苦笑した。
慣れるわけ、ないやん。
アイツが、がおらん暮らしなんか、
慣れるわけないねん。
「はは、・・・・はおらんねやったな。・・・つい癖で・・・すまん。」
「忍足・・・・。」
慣れるわけ、ないやん。
アイツが、がおらん暮らしなんか、慣れるわけないねん。
あんなキャラ濃い奴が急にいなくなって、何で慣れるねんな。
どうやったら普通にできる言うねんな。
そんな方法あるんやったら、是非とも教えてほしいくらいやわ。
「ねえ、何探してるの忍足?」
「・・・・テーピングや。さっきから探してるんやけど何処にもないねん。」
「あ、それだったら僕の使う?ちょっと伸びが悪いけど・・・間に合わせならいいと思うよ?」
「ああ、借りるわ。ありがとさん。」
俺が頷くと、滝はニコリと笑って「ちょっと待ってて。」と言って自分のロッカーを開け、鞄を漁った。
その後ろ姿を見ながらぼんやりと思い出す。
やったら聞かんでも俺の欲する物くらいわかるんやろうな、なんて。
何でアイツいつも俺の欲しい物わかったんやろ。
振り返ったらもうすでに俺の欲しい物手に持ってたアイツ。
絶対俺の独り言聞いててんで。
うっわ、最低やな、アイツ。
「あった!はい、どうぞ。」
「おう、サンキュ。結構使うけどええか?」
「いいよ。その時はまた新しいの買って貰うから。」
「・・・・・俺が、ですか?」
「当然でしょ。」
「・・・・・・・・・・・。」
何でなん?
何でお前は、は今ここにおらんの?
何で俺の欲しい物持って立ってへんの?
何してんねん。
調子狂うわ。
俺のタイミング狂わさんといてくれるか。
お前が、がおらな俺は・・・・・・・・
今でも振り返ったら、
何食わぬ顔でお前が俺の欲するものを手して立っているように思えて、
俺はふいにお前の名前を呼んでしまうんや。