君の死、僕の涙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんなに頑張っても。

 

どんなに体を動かしたって。

 

もう何もできなくなっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

跳べない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――・・ッ」

 

 

 

 

 

もうテニス部に顔を出さなくなって三日。

俺は誰にも内緒で一人でひっそりと練習をしていた。

 

 

 

 

 

いつもなら取れるはずのボールが足元を転がっていく。

どんなに必死に手を伸ばしても、ボールはラケットに当たってさえくれなかった。

 

 

 

 

 

が死んだ。

が俺のせいで死んだ。

 

 

 

 

 

俺が無駄に遊んで使い果たしたエアサロを買いに行って、そして死んだ。

全ては俺のせい。

俺がを殺した。

 

 

 

 

 

ボールを打つと頭の中はそればかり。

ボールが手元に返ってくる直前にふと力が抜けて届かない。

当たる感触すらしない。

 

 

 

 

 

「――――・・ックソ!!!」

 

 

 

 

 

買ったばかりのラケットを地面に叩きつけてその場にしゃがみ込む。

近くなった地面が歪んで見えない。

ひとつ、またひとつと大きな染みを作って広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃー三連勝!!」

 

 

 

 

 

あの時はまだ入りたてで、

俺はご自慢のムーンサルトをお披露目したくて同い年の奴をたくさん相手にした。

一年生ってなだけあってまだあまり強い奴はいなくて、俺は簡単に三連勝を飾った。

そんな浮かれきった俺の前に、アイツは現れたんだ。

 

 

 

 

 

「ぷぷっ。」

「んだマネージャー!!お前今笑っただろ!!」

「ええ!!?聞こえたの!!?」

「・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

アイツは俺のムーンサルトを見て笑いやがったんだ。

他のみんなはすごいすごいって褒めちぎってたってのによ。

失礼な奴だと思いながら睨みつけてやるとそいつはへらへら笑いながら俺の元へとやってきた。

 

 

 

 

 

「よく跳ぶねアンタ。」

「俺の専門分野だからな。すごかっただろ?」

「うんすごいね。もっと跳べる?」

「おう!見とけよ!!」

 

 

 

 

 

アイツもすごいと思ったことが嬉しくて今日一番のジャンプを見せてやった。

だけどアイツはまだ腑に落ちないような表情をして俺のことを見つめてた。

 

 

 

 

 

「残念。」

「はあ?」

「審判の台まで届いてなかったよ。」

「あったりまえだろ!!そんなに跳べたら人間じゃねえよ!!!」

 

 

 

 

 

何てこと言いやがるんだコイツは、と頭を掻くと、

は何か思いついたようにニシシと歯を見せて笑って俺の前に小指を差し出してきた。

俺は何がなんだかわかんなくてただ首を傾げてその小指を見つめていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ引退までの私と岳人の目標ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肩が揺れる。

息をすることすらままならない。

苦しくて。

苦しくて。

涙が止まらない。

 

 

 

 

 

「――――・・・っふ」

 

 

 

 

 

息ができない。

思い出すだけで体に力が入らない。

 

 

 

 

 

俺は跳べない。

お前が、がいないと跳べない。

 

 

 

 

 

跳べない跳べない跳べない跳べない跳べない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

跳べないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、どうすりゃいいんだよ。

俺はどうすればまた跳ぶことができる?

俺は跳べないとテニスすらできない。

お前がいないと跳ぶことすらできない。

 

 

 

 

 

「ち・・・っく、しょ・・・・・」

 

 

 

 

 

大の字で寝転がって見上げた空は腹立たしいほど晴れていて。

涙の跡なんて簡単に消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は跳べない。

 

お前がいないと跳べない。

 

 

 

 

 

 

今の俺はまるで、

 

そう、

 

羽根を失くした鳥と同じなんだ。