君の死、僕の涙
思い返せば思い返すほど。
あの時の後悔が俺の心をえぐり続けた。
もうひとつだけ
「こらー1時間目から寝るな!!」
アイツは同じクラスで後ろの席。
いつも俺にちょっかいばっかりかけてきやがって。
怒られなくてもいい俺まで先生に怒られる時だってある。
「うっせー俺は朝練で疲れてんだよ。」
「それはみんな一緒!宍戸以外の部員はみんなちゃんと起きてますー!」
「ジローは?」
「アレは寝てるねぇ。」
「・・・・・・・・・。」
ガタンと音を鳴らして椅子を後ろへ引いて座る。
俺は机に突っ伏してて見えないけど音だけでアイツの行動全てがわかった。
「ほら起きる起きる!」
「バッカ揺らすんじゃねえよ!!っつか一時間目何だよ。」
「・・・・・えっと、現文?」
「寝かせてくれ。」
「コラコラ!!現文は話を聞いてこそ成績がよくなるものなんですよ宍戸くーん!!」
ずっと椅子をガタガタ揺らし続けるコイツは本当にウザイ。
だけど俺が一度顔を上げて振り向いてやると、その動きもピタリと止まる。
「現文なんて一度くらい受けなくったってそんなにたいして変わんねえよ。」
「それもそうだね。じゃあ寝てていいよ。三分おきに椅子蹴って起こしてあげる。」
「うぜぇなソレ。したらお前殴るからな。」
「ヤダ宍戸の乱暴者!女の子に殴るだなんて!」
「お前が女だったら殴らねえよバカ!」
そうこうしているうちに教室に先生が入ってくる。
俺はもう一度大きく欠伸をして机に突っ伏して寝る体勢を取った。
後ろからアイツのくすくす笑う声が聞こえて椅子を蹴られるかな、と思った時だった。
「じゃあ授業終わったらノート貸してあげるね。おやすみ。」
帰り道が同じ俺と長太郎とはいつも三人で同じ帰路を歩く。
長太郎は途中で別れて違う道を行くけど俺との家まではそう遠くないから俺は特に何もなければいつもを家まで送り届けていた。
そうあの日は確か跡部が今日中に行けとに押し付けた買い出しリストを片手に
俺とは帰り道にある大きなドラッグストアへと足を運んだ。
そこに着くまでに買ったテニスボールが重い。
手に食い込む袋の取っ手が欝陶しかった。
『コールドとエアサロ・・・あったあった。』
が嬉しそうにコールドとエアサロを三本ずつ手に取る。
俺は咄嗟に顔を歪めて『ゲッ』っと声を漏らした。
『何よ。』
『三本もいらねぇだろ。これ以上荷物増えたら重いっつーの。』
『私が持つからいいじゃん。体力ないねぇ宍戸は。』
『これだけ持ってれば十分体力あるだろ!っつーか明日朝また家から持って行かなきゃいけないってこと忘れてねぇだろうな!』
『あ、そっか。』
『・・・・忘れてたのかよ。』
あーそれもそうだねー。なんて暢気に笑いながらはコールドとエアサロを一本ずつ棚へと戻した。
そのあともまだまだ買う物がたくさんあって、たぶん跡部は俺も買い出しについて行くことを前提にこの買い出しリストを作ったんだなと聞かずとも予想はついた。
俺のせいだ。
あの時、本当はアイツはコールドとエアサロを買いになんて行かなくてよかったんだ。
行かなければ車にはねられることなんてなかったってのに。
何でだよ。
何であの時俺は無理してまでもう一本買っておかなかったんだよ。
一本くらい重くったってたいして変わんねぇじゃねえか。
俺が、ちゃんともう一本買ってれば
アイツは
は
死なずにすんだのに。
何でどうしてなんて今さら思ったってどうしようもない。
わかっているけど涙は止まらなくて。
あの時ああしてればっていう後悔だけが何度も俺を襲う。
俺が重さを我慢してさえいればよかったんだ。
そしたらあの日、コールドもエアサロもなくなることなく、
アイツも買いに行く必要なんてなかったんだ。
死なずに、すんだんだ。
ガタン。
後ろの席が空いている。
もう俺の後ろの席にが座ることはない。
俺を起こしてくれる奴も、
ノートを写させてくれる奴も、
授業当てられたところを教えてくれる奴も、
誰も居ない。
今はその机の上に花が入った花瓶が置かれているだけ。
自身はどこにもいない。
椅子が引かれる音すら、俺の耳には入ってこなかった。
「おはよ、宍戸君。」
「・・・・・・・ああ。」
クラスの女子が俺の隣を通り過ぎる際に挨拶をしていく。
素っ気無い、我ここにあらずな返事を返してまた静寂が戻ってくる。
あの日からちゃんと起きている。
朝練を終えてもなお起きている。
机に突っ伏して寝たりなんてできない。
アイツが、が起こしてくれるんじゃないかって、変な期待をしてしまうから。
辛いんだ。
苦しいんだ。
寂しいんだ。
アイツの、の笑顔がないと。
アイツが、が後ろにいないと。
全てはあの日、俺がもうひとつだけ買っていれば・・・・
今もまだは俺の後ろに笑顔で座っていたのだろうか。