君の死、僕の涙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪戯好きの君と俺は。

 

よく一緒になって跡部に怒られたりしたよね。

 

授業だってサボってお昼寝だってした。

 

もう、それすら一緒にできなくなっちゃったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実逃避

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭に、サイレンの音が焼き付いて離れない。

を乗せた救急車が、もう駄目だと、悲鳴をあげているようにしか俺には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

俺と岳人が使い果たして、日吉が頼んだコールドとエアサロを買いに行った帰りに、は車にはねられた。

が倒れていたらしい所より少し離れた場所に袋に入っていないお店のシールだけが貼られたコールドとエアサロが、少し変形して転がっていた。

それを無言で拾い上げて握りしめた日吉の横顔に、俺は息をすることすら忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

初めは大きなクラクションと大きな鈍い音が聞こえて何だろうと思いながらもラケットを振るのを止めなかった俺達。

だけど救急車のサイレンが聞こえ始めた辺りで我慢しきれなくなった俺と岳人が野次馬のように校門前に駆け付けた。

そんな俺達を追いかけて来たみんなは思わず走っていた足を止めて目を見開いた。

たぶんみんな何か咄嗟に嫌な予感が働いたんだと思う。

俺も、そうだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ赤に流れる血と、救急車に乗せられる大好きなの姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・、嘘・・・だろ?」

 

 

 

 

 

岳人の掠れた声に、握っていたラケットが地面に落ちる乾いた音が耳に響いた。

夢、かもしれない。

ふと頭に浮かんだ考えもすぐに消え失せる。

 

 

 

 

 

だって、だって。

心臓が煩いくらい鳴り響いてるんだ。

胸が、心が、ありえないくらい冷たくなってて。

喉が、熱い。

 

 

 

 

 

なあ、これって俺のせい?

俺がコールド使い果たしたから?

岳人と遊ぶために使っちゃったから?

だからは買いに行かなくちゃいけなくなって、そして車にはねられた?

 

 

 

 

 

だったら俺、どうすればいいの?

どうやったらは、は助かるの?

 

 

 

 

 

答えの出ない疑問が頭の中をくるくる回り続ける。

開いた口が乾いてきて唇が震えてる。

いつの間にか眉間に寄ったシワが増えてて、自分でも気付かないうちに険しい顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご臨終です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

 

 

 

 

 

が死んだなんて嘘だ!

 

 

 

 

 

だってそんなのありえないっしょ!?

さっきまで笑ってコート駆け回って。

ボトルひっくり返してドジだなって・・・。

 

 

 

 

 

なのに何で今病院のベッドでそんな顔して眠ってんの?

ありえないっしょ。

嘘だよね?

夢なんだよね?

うっわ、質の悪い夢。

 

 

 

 

 

冗談じゃないよ。

今日は天気もいいし暑いし蝉も煩かったから部活の帰りにみんなでパフェ食べに行こうと思ってたのにさ。

何してんの

冗談も悪戯も・・・もううんざりだよ!

悪戯ならもういいからさ。

いいから目を開けて早くコートに帰って来てよ。

ねえ、

 

 

 

 

 

「・・・・ッ、せんぱ、何で・・・。」

 

 

 

 

 

隣で泣き出す長太郎の背中を頬に涙を伝わせた宍戸が黙って優しく叩く。

 

 

 

 

 

実感させられる。

の死。

 

 

 

 

 

遅れて来たの母親がそのまま病院の床に泣き崩れて叫んでいた。

父親はまだ、来ていなかった。

 

 

 

 

 

「目ぇ覚ませ!目ぇ覚ませよアホ!」

「忍足、やめなって!」

 

 

 

 

 

柄にもなく叫んでいる忍足を必死で止める滝の目にも涙は溜まっていて、今にも零れ落ちそうだった。

岳人はもう声も出せないほど肩を上下に揺らして泣いている。

じっと立ってを見下ろしている日吉だって眉間にシワを寄せて涙を流していた。

 

 

 

 

 

だけどただ一人、跡部だけが泣いていなかった。

 

 

 

 

 

いや、泣けなかったんだ。

あまりにも、現実を受け止めることができなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達にとって、という人物は

 

亡くすにはあまりにも存在が大きすぎたんだ。