君の死、僕の涙
俺のことをからかう女の人なんて。
そんなのあの人ぐらいしかいませんよ。
でもそれが不思議と嫌じゃなくて。
むしろ笑顔にさせられるからあの人は不思議なんだ。
擦れ違う背中
空があまりにも綺麗で。
こんな日はジロー先輩あたりがパフェを食べて帰りたいなんて言いそうだなと思いながら目的の人を捜し続けていた。
「あ、先輩!宍戸さん見ませんでした!?」
コートに入ろうとフェンスの扉に手をかけた先輩を呼び止める。
先輩は一度首を傾げてから「うーん」と唸って首を左右に振った。
「どうした長太郎。宍戸に愛想尽かされたか。」
「違いますよ!宍戸さんが打とうって言うからコートに行ったのに何処にもいないんですよ。」
「あー、愛想尽かされたんだー!」
「だから違います!」
この先輩はいつもこうだ。
わかってるくせに人をからかうのをやめない。
でも引き際をわかってる人だからしつこくなくてちょうどいい。
だからって俺も許してしまっていつも怒るに怒れない。
こうやって悪戯に笑う先輩は本当に俺よりも年上なのか疑ってしまうほどだ。
「あ、そういえばさっき日吉が先輩のこと捜してましたよ。」
「え、若が?あらヤダ。告白かな。」
「たぶん違うと思います。結構不機嫌な顔してましたから。」
「ゲッ、機嫌悪いの若!?」
先輩はやだなーと口を尖らせながら頭を掻いてコートの中へと入って行った。
俺も宍戸さん捜さないと。と首からかけていたタオルで額を拭って先輩と反対方向へと走り出した。
向かい合った先輩との背中。
一度だけ俺はふと足を止めて振り返ってみた。
先輩はコートの向こうのベンチにいるだろう日吉に向かって歩き出していた。
その小さな背中を一目見て、俺は再び走り出した。
最後の貴女のその背中が、俺は今も忘れることができません。